トランペットを吹くときに最も大切にしていること
楽器を演奏するときに、ゆるぎない指針があるとそれだけで上達が早くなるのではないかと思っています。
それは、人によって大きく違うところと思いますが、例えば一つの教本だったり、誰か尊敬するトランぺッターだったりすると思っています。
俺にもそれは一つあって、自分の好きなトランぺッターの語録がそれにあたります。
自分が最も好きなトランペット吹きは二人いて、故ロルフ・スメドヴィック氏と故アドルフ・ハーセス氏です。
ロルフ・スメドヴィックは金管五重奏エムパイヤ・ブラスのトランぺッターです。
自分が初めて聞いた金5の音源であり、あの時の衝撃は忘れられません。
クラリネットを吹いているようなスムーズなハイトーンの速指が、よく聞くとトランペットだった。
殆どのトランペットって、音色や音程にクセがあるため、なんの音をなに管で吹いているか、聞けばだいたいわかるんですよ。
でも彼のトランペットだけはなんの音かわからなかった。
完璧な音程。完璧な技術。
あそこまで人間離れした精緻なトランぺッターは他に知りません。
はあはあ…(*´Д`)
しまった、興奮して話がそれてしまった。
そうではなく、今回はもう一人の方。
故アドルフ・ハーセス氏です。
この人は半世紀以上にわたって、かのシカゴ交響楽団で首席奏者を務めあげた最強のトランぺッターです。
伝説は枚挙にいとまがありませんので割愛しますが、少し調べるだけでいくらでもヒットします。
このハーセス氏がいつかのレッスンで弟子に言ったものだと思いますが、それをメモしたものが自分のバイブルです。
ハーセス・レッスン・メモ*1
メモはティム・ケントが巨匠、アドルフ・ハーセスとのレッスン中にとられました。
- 練習セッションとすべての演奏
- すべての音域とボリュームでロングトーンの練習をしなさい。
- シングル・タンギングのスピードとダブルおよびトリプル・タンギングのスピードをオーバーラップさせてください。
- ソルフェージュ - 視唱 - オーケストラからの抜粋と練習曲をマウスピースでバジングしなさい。
- 美しくそしてありのままのふさわしい時があります- 両方を使用しなさい。
- サウンドはあなたがあれこれをどのように行うかの基準です。
- メロディ(旋律)を演奏することは非常に重要です。技術的なパッセージでさえもトーン(音)の重要性を知ってください。
- 高音域の曲を演奏をするのに練習のためにさらに高いノートからピック・オフ(むしり取る)してください。
- 覚えていて下さい。 - 不安定な高音域はノートをヒットするという気を緩めることが原因です- むしろ塊をテイク(取り)しそしてブローします。それが素晴らしくなるただ一つの方法です。あなたがすべてのノートで気を緩めれば耐久性が失われ、そして全体的なサウンドは吐き気を覚えるようなものになります。
- 一貫させなさい、そして決して練習してはいけません。何時もパフォームしなさい。
- 演奏する場合身体にどんな緊張も持ってはいけません、常にリラックスすることを学びなさい。
- スラーに賛成しません、そして実際どんなノートにも賛成しません。
- 45分だけの練習セッション、それがバドが行うことである。
- あなたのチョップスはどこも調子が悪くありません。あなたの心はそれらを台無しにしています。高音域は低音域よりフィジカル(肉体的)ではありません、それらが同じくらい容易であるべきであり同様に丁度良くサウンドするべきです。そのそのような問題を行なわないでください。この習慣は作り出され結局去るでしょう。しかしながら、この悪い習慣を取り除くために、1つの方法だけがあります。また、それは毎日演奏することにコンセプト(概念)を適用することです。
- すべてのレンジ(音域)で音程の合った良いサウンドさせるためにアルペジオを演奏し、そしてサウンドを聞いてください。
- バドは歌手が行うようにエクササイズを演奏します。
- すべての高音域のメカニックについて考えないでください、ただ演奏しそして聞いください。
- ノートが美しくサウンドしている場合は音程が合っています(逆もまたしかり) 。
- よいサウンドと同じラインに沿ってアプローチしてください。そうすればイントネーションはまたそこに来るでしょう。耳は仕事をすべて行うでしょう。
この語録のいいところは、精神的であいまいな部分と、実際の演奏に際した具体的な練習方法のどちらもがバランスよく書いてあることです。
メンタルもフィジカルも、その両方が大切ということです。トランペットという楽器においては特に。
そしてこれらの指摘は全てが重要ですね。全部のコメントで語れます。
その中でも、一番好きなことばがこれ。
「練習してはいけません。パフォームしなさい」
この言葉は、それまでロングトーンとかタンギングとか、メカニカルな基礎練をたくさんやってきた自分にとって非常に衝撃的でした。
performそのものの意味としては、「果たす」「演じる」「演奏する」等の意味があります。
「果たす、成し遂げる」というところから感じ取れるニュアンスとしては、どちらかというとプラスの意味があると思います。
自分の中でのパフォームの日本語訳は、「魅せる」です。
楽器を構えて、音を出し始めた瞬間から聞いている人のことを意識する。
それがただのウォームアップであっても、ロングトーンであっても、常に誰かを魅了できるような「音楽をする」こと。
たとえ、聴いている人が誰もいない部屋で吹くときでも。
これを考えるようになってから、自分の感覚が大きく変わったように感じます。
まず、すべてが音楽的になりました。
楽器を吹くことに技術的な要素を考えていたのが、楽器が音楽をするただの手段のひとつであることが理解できたというか。
そして、自分の出す音に心を込められるようになりました。
そうなると、楽器を吹くことへの集中力が上がりました。
特に技巧的に難しいところ、例えばハイトーン域での「音を当てなきゃ」という雑念とかね。
自分の楽器を演奏する際の、これからも大きな指針になり続けることは間違いないです。
最後に。
*1:KUNIOのホームぺージより引用、原文はHerseth lesson notes