ロングライドと座禅は似ている
サイクリングロード=禅堂
ロングライドで特にサイクリングロードを走っていると、すごく退屈になります。
場合によっては50km以上、変わらない景色の中を走ることになります。
この精神と時の部屋に入ったかのような長い時間は、俺の中では結構有効に使えていると思っています。
一つには、哲学的な考え事。
「宗教とは何か」とか、「なぜ自分は自転車に乗るのか」とか、「自転車に乗り続けているとどうなるのか」とか、「楽器演奏と自転車の相違点」とか、「仕事の進め方」とか考えていたりします。
結構はかどります。
もう一つが、無心になる事です。
主にペダリングについてずっと考えることにしているのですが、あまり細かいことは考えず、ただただクランクを回すことだけを考えて自転車を漕ぎます。
そうすると、途中で無心でひたすら漕いでいる状態になる事があります。
特に上に書いたような考え事とか、「疲れた」とか「いつまで走るのかな」なんてのさえ思い浮かばない時間です。
これが、とても座禅に似ていると思うのです。
俺は中高と某仏教系の学校に通っていましたが、そこでは座禅の授業もありました。
禅堂(座禅するためだけの部屋)で座禅をしている間は、無心になる時間を一瞬でもいいから作れ、と言われます。
高校生の頃はよくわからなかったので、ほとんどは頭の中で音楽をかけていましたが。
時々気が向いて「無心の時間」を作ろうとすると、これがまた難しい。
「無心にならないと」とか、「うーん」とか、そんなよくわからんことを頭の中で考えてしまって、「何も考えていない状態」は一瞬しかなる事ができませんでした。
只管打坐
他の宗派をよく知りませんが、中高の宗派だった曹洞宗には只管打坐(しかんたざ)という言葉があります。
漢文的に解釈すると、ただ只管(ひたすら)に坐禅に打ちこむ、というところでしょうか。
だからなんだよ、って感じですが、これこそが座禅の本質なんですね。
「無我の境地」を目指すわけです。
座るために座る、自分が座禅そのものになる、俗世から離れる、とかいろんな言葉にできますかね。個人的には「ただひたすらに」という響きが好きです。
で、自転車に話を戻すと、特にサイクリングロードで自転車を漕いでいるとき、無心になる事があります。
その時、考え事は全くせず、ただひたすらに漕ぐために漕いでいます。
自分がペダリングそのものになっているというか、体も感覚も自分のものでないような感じがしてくるというか。
体が痛かったりするのも忘れて、意外なほど速いスピードが出ていたりします。
名づけるなら、只管打坐をもじって只管打漕というところでしょうか。
これが意外とできた後に達成感を感じます。
ああ、没頭したなあ。みたいな。
只管打漕がたどり着くところ
座禅や自転車の上でその状態になっているとき、自分はどうなっているのか。
それはすなわち、無意識の集中状態だと思います。
このレベルを極めていくと、スポーツでは「ゾーン」、仏教では「無我の境地」という状態になるんじゃないかと思っています。
ちなみにゾーンとは、ネットで調べると「超集中状態」とあります。
試合中とかに「集中だ!」って思っているときは、まだ集中しきれていないわけです。
もっとその先の世界では雑念はすべて消え、時間の感覚があいまいになって、無意識に体が動き、高いパフォーマンスが出せる状態になってきます。
「無我夢中」「火事場の馬鹿力」というのもかなり近い概念かと思います。
ちなみにプロのスポーツ選手は、この無意識の状態に意識的に入れるそうです。
それを引き出すトリガーとしてよく言われるのが、「ルーティーン」ってやつですね。
いつもと同じ動作をすることで、ゾーンへと自分を誘導する。すると、最大限のパフォーマンスが出せるというものです。
意外と音楽でもあるものです。
特に、吹奏楽の演奏会で何度かなったことがあります。
緊張するソロのシーン、演奏会のクライマックスのシーン。
一瞬が長時間に引き伸ばされて、感覚が延長されて周りの情報がたくさん入ってくるような状態。
周りで誰がどんな音を出していて、ホールの向こうにいるお客さんの顔が判って、隣で吹いている人が次にどんな息を吸うかわかる。そんな時間です。
「全能感」や「場の支配感」にも近いものを感じますが、これを感じるととても多幸感や達成感を感じることができます。
また、受験勉強の時にも時々なる事がありました。
割と勉強中にゾーンを(それと意識していなくても)感じる人は多いと思いますが、集中しすぎて、聞いていたはずの音楽もいつの間にか終わっていたり、あっという間に時間が過ぎているような感覚です。
テストの時なんかは割と入りやすいですよね。
この状態に自分で入れるようにするのは、いろいろなところで役に立つと思います。
例えばレースでもゾーンに入れれば、いつも以上の力で走れると思います。
仕事でも、勉強でも、音楽でも。ここぞというときに使える武器に持っておけたらいいなと思うのです。
そのための、只管打漕の練習。
自転車は没頭するのに結構向いているんじゃないかと思っています。